Last Updated:2006.07.19
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1998年に発売され、そのアメコミチックな世界観により一部で話題になったFPS「SiN」の8年ぶりの続編である。今作最大のポイントは、ゲーム内容そのものよりも、初のエピソード配信という方式が取られたことだろう。今までのように一つの完成した作品としてパッケージを出すのではなく、ある程度長いストーリーをいくつかに分割し、安く小出しにして販売していくという方式である。
これはValveのオンライン認証システム「Steam」の恩恵を最大限活かしたやり方であり、Steamから吸い出したユーザーの細かい動向(どこでどのくらい苦戦したか、どういう風にクリアしていったのか、クリア時間は何時間か、など)を次のエピソードに反映していけるのが長所とメーカー側は謳っている。しかし反対に一部しかプレイできず消化不良に終わる、割高になるなどの批判も多く、そんな中このSiN:EPは業界のこれからの行方を占う実験的作品として世に送り出されたのである。
物自体はオーソドックスなFPSで、前作同様、私設警察部隊ハード・コープスに所属する主人公「ジョン・R・ブレード」が、邪悪な遺伝子学者「エレクシス・シンクレア」と戦っていくというストーリーになっている。仲間としては前作にも出てきた凄腕のハッカー「J.C.」、そして今回のエピソードの顔とも言える「ジェシカ・キャノン」がいて、ミッションにあたるブレードを支援してくれる。そして物語は、シンクレアに捕らえられたブレードをジェシカが救出しにくるところから始まる。
プレイする前、いくつかの情報サイトを漁ったり、トレーラームービーを観たりしていた段階で疑問に思っていたのは、販売形態の話題はともかく、このゲームそのもののウリは何なんだ、ということだった。グラフィックはソースエンジンの域を出ないし、タイトルに他の超ビッグタイトルほどのインパクトがあるわけでもない。ひょっとして配信方法が話題を呼んでいるだけの素朴なゲームなのでは…という予感は、プレイしてみて見事に的中してしまった。
ブレードはいかにもアメコミの主人公と言えるようなマッチョな男で、武器にはオーソドックスなショットガンやアサルトライフルが用意されている。能力的には超人級で、多少銃撃を受けたりグレネードの爆風を食らう程度では致命傷にはならない。逆に敵は数が多いものの貧弱に設定されており、少し銃弾を受けるだけであっさり死んでしまう。敵にはモンスター系のものも多く、それら並み居る敵を与えられた装備でガシガシ倒していきながらストーリーを進行させる。マップもほとんど完全な一本道で、通れない場所にはそもそも行くことができず、ひたすら敵を薙ぎ倒しながらゲームは進行する。
…と、これがゲームのおおまかな内容なのだ。普通の人ならここで「おや?」と思うだろう。SiN:EP1には、取立てて売り文句となるような長所がない。もちろん最大の注目点は「エピソード配信であること」なのだが、これはゲーム内容そのものには(少なくともEP1単独で見るなら)関係ない。後で詳しく言及するが、SiN:EPのゲームバランスは一定の水準を満たしているものの、それ自体が長所といえるほどのレベルではないのだ。さらにこのゲームにはマルチプレイもないのである。プレイすると、なんとも旧態依然とした印象を受けてしまう。

ゲーム内容そのものは、超シンプル。一本道で迷うことはなく、ひたすら敵を倒していけばよい。
いきなりネガティブなことを書いてしまったが、このゲームは別に駄作というわけではない。ゲームバランスは唸るほどではないが悪くはない出来である。進行ルート上には多種多様な敵が出現し、ロケーションも大きく2箇所に分かれているのでメリハリがある。SiN:EP1のバランス面での最大の長所は、短いプレイ時間の割にバラエティに富んでいることだろう。今後も同じ敵が使いまわされるのなら続編ではそう感じられないかもしれないが、少なくともEP1だけで見るなら中ボスも結構出てくるし、プレイ中の密度は濃い。ただ最序盤だけは貧弱なハンドガンで大量の兵士を倒さなければならず退屈だったが。
プレイ中には良い感じのBGMが流れ、敵が次から次へと沸いてくる。ミニガンを乱射してくる敵や、獰猛なモンスターが襲い掛かってきて、それを薙ぎ倒すことができる。グラフィックにはHL2で有名なソースエンジンが使用されており、美しくそれでいてモンスターの筋肉の描き方には迫力がある。ここまで用意されればプレイ中はそれなりに燃えるというものだ。
人間型の敵の攻撃は銃撃なので避けることは困難だが、倒すと大抵の場合ヘルスを落としていくので、攻撃を食らいながらでも強引に進むことができテンポは良い。回復手段には他にもHLの回復装置のようなものがあり、カプセルの中にある液体の分だけ体力を回復させることができる。またこの回復用カプセルはロッカーなどを探ると見つかるので、探索をすると有利にプレイを進めることができる。
武器には2種類の攻撃方法が用意されており、右クリックで発動するセカンダリは弾は少ないが強力な攻撃手段になっている。複数の反射する鉛弾を発射して通路にいる敵を攻撃できるのは楽しく、ミサイルランチャーのような武器で敵を吹き飛ばすこともできる。また通常の弾薬に関しては豊富に用意されており、特に節約は考えずに撃ちまくることが可能。残酷表現もそれなりで、敵を倒せばある程度血は飛び散るし、襲ってきた敵の死体も大量に残る。FPSの基本である「敵を薙ぎ倒していく爽快感」に関しては及第点と言って良いだろう。
問題としては敵が変化しても、プレイヤーが対応する必要があまりないということだろうか。結局のところこのゲームの基本方針は「肉を切らせて骨を絶つ。ダメージはそこら辺にゴロゴロしているヘルスで回復させていく」というものなので、とにかくどんな敵が出てこようと強引に倒していってしまうことができる。敵兵士が出てこようと、モンスターが出てこようと、プレイヤーがすることは立ってマシンガンを連射することなのだ。そのため確かに敵のバリエーションは豊富だが、それを活かしきれていない。
これはゲームバランスの問題である。接近戦を挑んでくるモンスターの噛み付きは、リーチはないが食らったらとてつもなくヤバイ、くらいに特徴づけしておいた方が良かったのではないか。こちらが変化する必要がない理由には、敵のAIも挙げられるかもしれない。引っかかりなどの初歩的なミスはさすがにないが、敵兵士もモンスターもプレイヤーを見つけたら攻撃するというシンプルなもので、似たように感じてしまう原因になっている。オブジェクトを認識して吹き飛ばすという行動はあるが、HL2と全く同じだし、そもそもオブジェクトが少ないのであまり見かけることがない。
それとダメージを受けながら進むというのは、テンポが良いとも言えるが、スマートでないということでもある。特に中盤以降はやや難易度が高く、ボロボロになりながらも強引に進んでいくことになるので、フランストレーションが溜まる。
あとは配置の妙というものが感じられない点も味気ない。敵は雑然と配置されている感があり、何故ここにこの敵が配置されているのか、というのを考えてもその意味が見えてこない。ただ何となく敵を大量配置したという感じだ。簡単に言えば工夫がない。AIがシンプルなら、代わりそれを感じさせない配置を考えるのが重要なのだが(だから昔のゲームの古いAIでも面白く感じる)、このゲームにはそれがないため、余計に素朴だと感じてしまう。
このゲームには「パーソナル・チャレンジシステム」というのが導入されており、プレイヤーがどのくらい苦戦しているか(または楽勝で進んでいるか)によって敵の強さが変化するようになっている。が、私にはゲームがどの程度変化しているのか、それほどハッキリとはわからなかったので、明確な評価は避けておく。一応死んだ後のオートロードを待てば敵は弱体化するようだ。最後に、このシステムをRitualは「全く新しい試み」と呼んでいるが、使い古された手法だということを付け加えておこう。

特徴ある中ボスが用意されていたり、色々な種類の敵が出てくるのは好印象である。迫力もなかなか。
前述したようにSiN:EPはHL2で採用され有名になったソース:エンジンを使用している。そのためパッと見た印象は、明るめで少し渇いたような感じといい、HL2にかなり近い。グラフィックのクオリティそのものは2006年のゲームとしても見劣りするものではないし、水面が反射する様子などは幻想的でもある。この作品単独で見るならば、グラフィックは水準レベルであるといえる。
だが同じエンジンを使用しているということは、比べられてしまうということだ。決して悪いレベルではなく、あちらの方が尋常じゃないだけだと思うのだが、やはりこの作品の弱点は全体的に薄っぺらいことだろう。具体的に書くとテクスチャの描き込みが甘く、質感がHL2ほど感じられない。HL2で接近したときに分かる非常に細かいシワ、壁の汚れという部分まで描ききれておらず、淡白だという印象は拭いきれない。
またHL2のキャラクターが見せる感情表現に比べると、SiN:EPのキャラクターの目や口の動きはロボットのようだ。発売前の話ではより進化しているということだったのに、逆に退化してしまったのは残念だ。それとこのゲームはモーションキャプチャーをしていないのだろうか?キャラクターの挙動が一々角ばっていて不自然さを感じる(コミック的演出としてわざとやっているのかも知れんけど)。
結局このゲームの損なところは、HL2と同じエンジンでゲームを開発し、同じ環境(Steam)で発売してしまったが故に、必然的にHL2と比べられ相対的に劣って見えてしまったことなのだろう。


Half-Life2:EP1(左)とSin:EP(右)の比較。大きさが違くて申し訳ないが、それを考慮しても違いがよく分かると思う。
エピソード形式の配信の最大の利点は「次に繋がること」だと思うのだが、それに付随した欠点もしっかり併せ持っている。価格が半額程度に抑えられている代わりにプレイ時間は4-5時間と非常に短く、ストーリーの始まりの段階で終わってしまう。そのため長編の途中まで読んだ後、しおりを挟んでお預けを食らうような消化不良の印象が残る。これは他のメディアの手法を真似たものなのだが、やはり30年も続いたやり方を変えられると違和感があるというのが正直なところだ。
また敵の種類は豊富と書いたが、武器の種類は非常に少なく3種類しかない。攻撃方法自体は6種類なのだが、セカンダリショットは頻繁に使えるわけではないし、武器もハンドガン、ショットガン、マシンガンという定番ものだけなのでかなり貧弱である。最低でも1種類は特徴的な武器を出すべきだと思うのだが、Ritualは出し惜しみをしてしまったのだろうか。長めのデモ版をやらされたような気分だ。

何しろ序盤だけでゲームが終わってしまうので、話が面白いのかも、これから面白くなるのかも分からない。
注:字幕はMODである。
エピソード配信という手法は興味深いが、はっきり言ってそれ以外に大した付加価値のない平凡な作品である。致命的な欠点がないというのも一つの長所だが、これといった特徴もなく、この分だと続編もこんなものではないかと想像してしまう。敵を倒していくことにそれなりのカタルシスは覚えるが、それ以上でもそれ以下でもない。エピソード配信の実験作としては役不足であると思う。
開発者達は、もしかしたらこのゲームを「古き良きFPS」「シンプル・イズ・ベスト」だと言いたいのかもしれない。だが私がSerious
Samのレビューなどで書いたように、シンプルで面白い作品を作るというのは最も難易度の高いデザイニングである。言葉では語れないような微妙なバランス・感覚を、豊富な経験と鋭いセンスでまとめなければならない。しかしこのゲームをプレイする限り、開発者達はそのような作品を作るにはまだまだ実力不足であると感じる。
決してつまらないわけではなく、中盤以降はなかなか燃える展開が待っているが、この作品の前にやるべきものはあるのでは、というのが本音だ。これがエピソード配信という手法でなくSiNという名もついていなかったら、恐らくそのまま埋もれてしまっていただろう。無難な内容ではあるので、FPS初心者はハマれるかもしれない。
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