Mirror's Edge 批評

Last Updated: 2009.02.09 / First Edition: 2009.02.09


概要

Battlefieldシリーズで有名なEA Digital Illusions CE (DICE)が「今までにない一人称視点のゲーム」というコンセプトで作ったAction Adventure。コンソールだけで既に100万本の売り上げを突破している。プレイヤーは女性の運び屋 Faithとなって大都市を自在に駆け抜け、仕事をこなしていくが、ある時から巨大な陰謀に巻き込まれる、というのがかなり大雑把なストーリー。



新しい一人称視点

一人称視点を採用したゲーム(FPS)のほとんどは、現実の人間が持つ様々な挙動をゲーム的な理由から殺してある。例えば動く際の視界の揺れ、自分の手足、走る際の加速などはリアル系FPSでも一部しか取り入れられていない。大抵のFPSでは足元を見ながら移動すると、幽霊のようにフワフワ移動しているのが分かる(そもそもキャラの足すら描かれていないものが多い)。銃を抱えた両腕は機械のように静止したままだ。

Mirror's Edgeの挑戦は、そういったゲーム的で不自然な挙動をなくし、プレイヤーが操るキャラクターの動きをより現実の人間に近づけることにある。特に完成度が高いのはカメラの揺れだろう。走ったときの揺れはもちろん、ジャンプしたり、何かにしがみついたときも、カメラは現実の人間の視界の動きをかなり細かく再現する。視界はときに斜めになり、反転し、もしキャラクターが転倒して仰向けに倒れればプレイヤーも青空を見るし、不安定な足場を渡ろうとすれば、バランスを取ろうとして広げた自分の両腕が見える。こういった再現によって臨場感が増すだけでなく、対象物との距離感が測りやすくなっている。

当然のようにHUDを完全に廃してあり、視界の変化のみでキャラクターの状態が分かるように工夫されている。移動時の慣性はプレイにストレスが溜まるからという理由で最終的に廃止になったらしく、あくまでゲーム的な面白さの範囲でリアルに徹したものとなっている。プレイして目新しさを感じつつも、そのことに起因するストレスは特になく、このバランスの取り方は上手い。



ゲームプレイ

その新奇的な一人称視点の演出とは裏腹に、ゲーム内容はかなりシンプルに作られている。ゲーム性としては80年代から90年代にかけて流行したマリオやソニックのような2D横スクロールアクションを3D化したものに近い。

ゲームプレイは移動に特化されており、主に実行するアクションはダッシュとジャンプくらい。あとはその組み合わせで発動するいくつかのテクニックを駆使して障害を乗り越えていくことになる。例えば踏み台を使って隣のビルにギリギリで飛び移る、壁を走って穴の上を移動する、三角飛びで高い場所へ登る、といった動作である。これらのアクションを、背後から追ってくる警官や特殊部隊に射殺されないうちに次々と連続で繰り出していく必要がある。そのため昔のゲームを引き合いに出すなら、強制横スクロールアクションに例えたほうがより的確かもしれない。

このデザインは合理的に感じられる。新しい視覚効果を体験させるには、ゲーム内容自体はシンプルで原始的な方がハードルが下がって受け入れられやすいだろう。また「基本的に走ってジャンプするだけ」という古典的な内容は、システムの複雑化が進んだ現在ではむしろ新鮮ですらある。



プレイヤースキルと難易度の関係

逆に問題点はゲーム内容よりも、むしろ死んで覚えるゲームの作りが現在のユーザーに受け入れられ難いことにある。率直に言って1周目は死にまくるためにテンポが悪く、視点以外にはこれといって評価すべきところのない作品という印象が強い。建物の端から飛び降りて、ジャンプをしたが届かなくて、上手くウォールランが発動しなくて、1周目は最近のゲームにしては珍しいくらい死にまくる。Mirror's Edgeを楽しめるかどうかの適正はここで試されている。

ゲームが進むに連れてアクションの複雑さや敵の攻撃の激しさは増していくが、キャラクター自身には何の強化も施されない、という点は興味深い。ゲームが後半に進んでも、Faithがロケットブーツを手に入れて物凄い飛距離を飛べるようにはならないし、強力な重火器を手に入れて敵を皆殺しにすることもできないのだ。唯一変化するのはプレイヤーのテクニックだけである。つまりゲーム後半をクリアするには、プレイヤー自身がゲームへの理解を深め、技術を磨かなければならない。

これは悪いことではない。プレイヤーの能力がゲーム難易度に直結するということは、それだけプレイヤーの努力と研究が評価されるゲームということだ。ゲーム自体もプレイヤーの研究とやり込みに応えるべく相応に作りこまれており、一見ほとんど選択肢のない一本道ゲーに見えて、実はあらゆる場所に別ルートやショートカットが隠されている。そのため知識とテクニックを持ったプレイヤーほど、より素早く確実にゲームをクリアすることが可能となる。

ゲームテクニックの中では、コイルジャンプ(ジャンプ中に足を折り畳んで障害物を乗り越える)が通常クリアには全く必要のない技だという点が象徴的と言えよう。このテクニックが必須になるのは実質的に伝授されるチュートリアルだけだが、実は効率の良いプレイを目指すうえでは、Mirror's Edgeの数あるテクニックの中でも最も重要なものとなっている。この他にもLジャンプや三角飛びなど、クリアを目指すだけならさほど使う必要のないテクニックは多いのだが、そのどれもが使いこなせればゲームの進行がかなり楽になる、という性質を持っている。

難易度Normal以下なら迷わないための赤い目印が出るし、ヒントキーを押して視点を進行方向へ向けることもできる親切設計なので、理不尽に足止めを食らう場面はないだろう。だが時にこれらが正しく機能しないこともあり、一見してどこへ進むべきか分かり難い部分があるのは事実である。またチュートリアルが全て最初にまとめられており「必要なことは全て教えた。後は自分で考えろ」と突き放されている印象も強い。もう少しゲームを進めながら段階的に解き方を示していく必要はあったかもしれない。



戦闘

基本的に地形を移動する楽しさが主なので、敵との戦闘は副次的な扱いとなる。プレイヤーはほぼ全ての場面において敵との戦闘を強制されず、むしろ敵など無視してさっさと先に進む方が遥かにスピーディーで安全である。一応警官の1人や2人なら近接攻撃で捻ることが可能だが、特殊部隊3,4人が固まっているとまずお手上げで、尻を向けて逃げ出さなければならない。

つまりこのゲームにおける敵とは「プレイヤーに走り続けることを強制させる存在」でしかなく、敵を倒す戦闘の面白さはほとんど用意されていない。敵を倒すと銃を拾うこともできるが、装填されている弾を使い切ったら捨てなければならないというCondemned仕様で、持ち運ぼうとしても片手が塞がってアクションが制限されてしまうので、いずれにせよその場にいる敵を倒したらさっさと捨てることになる。



2周目以降

脱落せずにゲームをクリアできると新しい世界が見えてくる。Mirror's Edgeには一度クリアした後に煮詰めていくためのモードとして、SpeedrunとTimetrialが用意されている。だがこれらは一般的なゲームのような、クリアした後のオマケ要素というわけではない。むしろ1周目こそがコースを覚えるための慣らし運転で2周目以降が本番となっている。それは単にクリアするだけでは気づかないような様々な場所に隠しルートやショートカットが用意されていることからも明らかである。1度クリアした後なら詰まらされることもなく、様々なテクニックを駆使した奥深いゲームプレイの楽しさも見えてくるので、ここからようやくMirror's Edgeというゲームが始まる。

Speedrunは1つのチャプターを丸ごと走ってタイムを競うものになっており、言ってしまえばチャプター毎のリトライ機能に時計をつけただけだが、マップ内で読み込みが入る場面では時計がストップするなど、公平なタイムが競えるように配慮してある。Timetrialはチャプターの1場面を切り取った区間内でチャックポイントを辿ることになり、Speedrunに比べると短く気軽にトライできる(Timetrialは1-2分で終わるがSpeedrunは8分くらいかかるものもある)、自分や他人のゴーストを表示可能、敵が出てこないので純粋にラインをトレースすることだけに集中できる、といった特徴がある。

タイムがアカウント保存なのでいつまでも記録しておける、インゲームでワールドレコードやフレンドのレコードを参照できる、といった点も評価したい。

内容以外での、いくつかの致命的な問題

以上のようなことを踏まえるとかなりの傑作という気がするが、内容以外のバグやプログラムの仕様に起因する部分でかなりケチがつく作品なので、そのことにも触れておく。まずPC版にも関わらずKBでのプレイすると大きな不具合がある。キーを押した際に全く反応しなかったり、入力が遅延するケースがある。これはMirror's EdgeをKB操作した際に発生する固有の問題で、再現率が高く、現状での解決策はKBを捨ててパッドでプレイすることくらいである。放っておくと建物の端からジャンプしようとした際に反応せずに、そのまま地面へ飛び降り自殺するという傍から見るとマヌケな結末を招く。そのためタイムを縮めようとする際は、実質的にKBが使い物にならない。

またMirror's Edgeはコンソール版に合わせて、マップの途中、特にエレベータに入っている間などに何度もデータの読み込みを行っているが、これがアクションの最中に行われると非常に深刻な問題が発生する。ゲーム画面がストリーミングによって一瞬固まるが、バックでゲーム自体は止まらずに進行しているため、コンマ数秒目隠しをしたような状態になってしまう。これはレンダリングとは別の問題なので、グラフィックス設定を最低まで落としたところで防ぐことはできない。

これらの問題は、当初は「まあパッドでプレイすればいいし」「まあカクついても我慢すればいいし」で済まされるものだった。だが1周目を終えてSpeedrunやTimetrialを煮詰めようとすると、それらの面白さをスポイルする非常に由々しき問題として立ちはだかるようになる。言うまでもなく、タイムを縮めようとするならより多くのキーを持ち高速な視線移動が可能なM/KBの方が有利だし、画面がカクついては精密な操作ができない。PC版を満足に楽しむには、これらを解決するための早急なパッチの適用が不可欠だろう。

グラフィックス



水準以上のクオリティでありながら軽い。エンジンには意外なことにUnreal Engine 3を採用。私の構成はAthlon X2 5600+、RAM 4GB、Radeon HD 4870という発売時点ではミドル〜ミドルハイくらいのレンジだが、それでもAA以外を全て最高設定(画面解像度は 1600*1200)にしても30-60fpsを余裕でキープでき、プレイに全く支障がなかった。

これは最近ではPCパワーを食う割合の大きい影の描画が、ほぼ全て焼きこみで済まされているのが大きいと思われる。またFPSと違い派手なエフェクトや爆発シーンもなく、ほとんど風景を見ながら1人で走るだけなのでフレームレートが非常に安定している。当初はスピード感のあるゲームということでモーションブラーをもっと多用してくるかと思ったのだが、これも意外に控えめだった。





Mirror's Edgeのグラフィックスで着目すべきは、技術的なことよりかも、その独特のアートデザインであろう。本作ではHUDを廃しプレイヤーへの情報量が少なくなったのを補うための手段として、描かれた環境をインターフェースの一部として組み込む手法を積極的に用いている。

理屈自体は単純で、色の使い分けで強調表示を行っている。環境に対して使われている色は主に白、黒、青、橙の4色のみ。そしてゲーム中では赤色が特別な意味を持っており、常に進路を指し示すインジケータとして使われている。プレイヤーが迷った際には常に赤色のオブジェクトを目指せば間違いがないわけだ。

オブジェクトに目印をつけ、ユーザーを誘導するための記号として利用するのはゲームデザインとしては初歩的なテクニックであるが、Mirror's Edgeくらいのスケールで徹底的にそれを行ったゲームは珍しく、全編を通して一度に使われる色は5色程度、目印になるオブジェクトは赤色、という徹底ぶりである。これとは逆に普通のゲームでは色彩をリアルに再現しようと努めているので、、その中から一色だけを際立たせ目印として使うのは困難となっている。





同じ色を多用し続けると飽きるためか、屋内に入ると基調となる色が変化し、不自然なくらいその色で統一される。例えば序盤で押し入るオフィス内は白と緑で統一されており、ソファーですら緑色に染められている。

Mirror's Edgeのグラフィックスは、一見すると写実的に見える。だが実は徹底的にデジタル化されている。それはまるでゲーム世界の管理社会を表現しているかのようで、Mirror's Edgeのグラフィックスを特徴的なものにしている。





欠点も挙げておこう。動的に描画される影が主人公のものくらいなので、静的なものと動的なものが絡んで、よく観察すると絵的に変になっている部分がある。またこれと絡んで動かせるオブジェクトがほとんどないのも若干寂しく感じるが、Shooterと違って派手な銃撃戦をしたり爆発が起こることはないのでそれほど気にならない。

PC版はNvidia PhysXに対応しており、対応カードとドライバがあればONにしてリアルな物理演算を楽しめるものの、相変わらず布がヒラヒラするとか窓ガラスが細かく砕けて嬉しいとか、ゲームに関係のない部分で自己完結しているだけなので進歩がない。積極的に導入する理由はないだろう。





リアリスティックなゲームの雰囲気の中、唐突に挿入されるアニメ風のカットシーンはギャップが大き過ぎて今ひとつ必然性を感じないが、これはDICE側も白状している通り製作時間面での問題があったため、カットシーンだけ外注に頼ったそうだ。別にこれ自体のクオリティは低くないのだが、写実的な描写の本編と水と油過ぎて違和感が大きい。ストーリーは教科書的な作りで、中盤あたりで展開が読めてしまうため「ないと寂しいと思ったのでつけました」程度のもので、特に語るべき部分が見当たらなかった。

日本ではEAがローカライズして販売しているが、EAらしくしっかりした仕事で、声優の演技から翻訳まで金をかけてしっかり行っており非常に質が高い。別に英語版でも問題ない内容だと思うが、価格的にもさほど変わらないので買うなら日本語版を勧めておく。

総評

シングルプレイでありながらプレイヤーにそれなりの努力を求める姿勢は、現在では人を選ぶだろう。1度クリアしてからが本番のゲームと言えるが、それを上手くアピールできなかった結果、あまり芳しい評価を得られなかったのは勿体無い。私自身は久しぶりにやり応えのあるアクションゲームが出てきたので評価したいと思うのだが、PC版はゲーム内容とは別の部分で減点せざるを得ないのが惜しい。総じて、良くできているのだが色々な面で損をしている作品である。



Mirror's Edge PC 輸入版
Mirror's Edge Xbox360版
Mirror's Edge PS3版





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