Last Updated: 2008.09.27 / First Edition: 2008.09.27

*: v1.5.04でプレイ。前作との共通部分の解説は基本的に前作の批評に譲る。
チェルノブイリ原発事故を題材にし、その独特の雰囲気と硬派なゲームバランスで2007年ベストFPSとの声も高い「S.T.A.L.K.E.R.:
Shadow of Chernobyl(以下SoC)」の続編である「S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky(以下CS)」。ストーリー自体はSoC以前を扱っている。CSは発売までの間隔が1年半程度ということから分かるように、SoCのX-Ray
Engineを改良して作られた拡張版的な内容である。ただしSoC抜きでも単体で動作し、また一般的なFPSで言う拡張版とは少々意味が異なる。
通常FPSにおける拡張版というのは「若干改良したエンジンで追加レベルを作る」という内容だが、CSでは「同じレベルを流用する代わりに内容に大きな変更を加える」という方式で拡張を行っている。メインとなるアウトドアフィールドは9つのマップに分かれているが、このうち完全に新規のマップは3つのみで、あとはダンジョン型のインドアマップが1つあるくらい。しかも新規マップはほぼリニアな構造で長居するようには作られておらず、SoCと同様に様々なクエストを請け負いながらじっくりプレイすると、プレイ時間の7割以上を前作と同じマップ(Garbage周辺)で過ごす事になる。

では前作を遊びまくったプレイヤーが、わざわざ金を払って拡張Mod的な本作を遊ぶ価値があるのか?結論から書けばその価値は十分ある。CSで追加された要素の多くは追加されるだけの必然性のあるものであり、CSはSoC
1.5と呼べるだけのパワーアップがなされている。
まずZone内部に存在する勢力間の争い、勢力図のリアルタイムでの変化などが当初の理想に近づいていること。S.T.A.L.K.E.R.は元々「A-Life」というシステムを売りとし、Zoneという仮想空間でそれぞれの勢力が独自の思考を持って行動し、勢力図を塗り替え、動的に変わっていく環境を提供しようとしていた…が、SoCでは結局のところ各組織がそれぞれの持ち場を動かずに保持しているに留まり、広げに広げられた風呂敷はほとんど畳めなかった。
CSはこの点をいくらか改善した。マップ内部に存在する勢力はアグレッシブに動き回り、筋書きのない勢力対抗戦を繰り広げるようになっている。プレイヤーがアイテムの売買に悩んでいると突然遠くで銃声が聞こえ、そこに死体の山ができることもあるし、どこかの勢力がBandit(盗賊)の拠点を奪おうとしているところに加勢すれば、しばらくの間その地点の安全を確保することもできる。
このようなダイナミックに変動している世界をプレイヤーに認識させ、干渉しやすいようにするために「マップに全てのNPCの現在地や向かっている地点が表示される」という変更を施したのは的確な調整と言えるだろう。S.T.A.L.K.E.R.のアウトドアマップはかなり広大であるため、プレイヤーに全体の情報を与えないとそもそも自分の認識できないエリアで何が起きているかなど知りようがないし、現場に駆けつけて干渉するのも困難になってしまう。プレイヤーにとって見えないものは存在しないのと同じなのだ。
反動で双眼鏡で索敵する楽しみがなくなり、敵のいる場所だけを的確に避けて通るなど少々反則的なプレイができるようにもなってしまったが、これは仕方なしと諦めるしかあるまい。またCSでもA-Lifeは生態系シミュレーションと呼ぶにはまだまだ程遠いレベルで、変動は限定的である。例えばあるレベルに存在し得る勢力は限定されているし、プレイヤーが干渉しなければ勢力図が完全に塗り変わることはない。A-Lifeに関しては続編でのさらなる改良が望まれる。
後半は前作と同じように展開がリニアになるが、建物の構造を利用した立体的な戦闘、アグレッシブなAI、的確なNPCの配置などで、そこらの一本道FPSより遥かに完成度が高い。この辺は流石。

貴重な特殊アイテムであるArtifactと、Zone内に発生している異常現象Anomalyの扱いには大きな変化がある。そもそもArtifactというのはAnomalyから発生する貴重な天然素材という設定なわけだが、どういうわけかSoCではそこらの道端にArtifactがポンポン置かれていたので、単にマップに散らばる特殊アイテムでしかなかった。
ところがCSではこのArtifactが目に見えない。しかもArtifactの周辺には必ず危険地帯であるAnomalyが大量発生しており、プレイヤーは探知機を片手に目に見えないArtifactを追ってこの危険地帯に飛び込まなければならなくなっている。Artifactを取りにいくのは常に命懸けであり、何の準備もしないものがそう易々と手に入れることはできない。これはゲームの世界観とも合致する。バランス的に難に思えるのは、序盤はせっかく見つけたとしても装備制限が厳しくて装着できないことが多く、中盤以降は探知機が万能になり過ぎてしまうことか。
この他で面白い変更点としては、金銭のマネージメントが非常にシビアになっていることが挙げられる。CSでは銃器とスーツを修理・改造できるようになったが、同時に耐久力が落ちやすくなり初期状態での性能も落とされ、前作と同じ水準に戻すだけでも多少の改造が必要になった。単純にプレイヤー側が弱くされた上に金が手に入る機会も減っており、CSでプレイヤーは慢性的な金不足に悩まされることになる。下手すると戦闘に最低限必要なMedkitすら不足しハイエナに転職する必要が出てくる。金を手に入れる手っ取り早い方法はArtifactを売ることだが、上記の通りCSでのArtifactは非常に貴重なので手放したくなく、こういった取捨選択がかなり良くできているという印象。

良い点ばかりでなく悪い点も。CSはマップがほぼ使い回しなので、言ってしまえば本家のデベロッパが作りこんだ大型Modに過ぎない。それを続編として堂々と発売するのはどうなのという問題は置いておくにしても、全体を包む雰囲気は同じだし新規マップもその延長線上で作られているので、前作を初めてプレイしたときのような衝撃を味わうことはできない。
これに関してはもっと上手い誤魔化し方があったはずで、例えば中盤のクエストを請け負ったり勢力間の争いに加わるなどして長く滞在するエリアに新しいマップを集中させ、リニアな展開になる場所を前作の流用で済ませてしまえばもっと印象が良くなったのではと思う。現実には何故かこれと真逆のやり方(長く滞在する場所が流用マップで、さっさと通り過ぎてしまう場所が新規マップ)になっているので余計に使い回し感が強く、手抜きな印象を受けやすい。
それとゲームの流れが平坦。SoCでは地下研究所のインドアマップが不気味で、クリーチャーの配置も効果的だったが、CSではひたすら地上を歩きながら人間とばかり戦い続けていて起伏に欠ける。クエスト内容が似通っていて面白味に欠けるという点も同じ。
他にも細かい改悪点や不具合が多いが、ダラダラ書くと読み難いので以下に列挙しておく。
総評としては、マップが基本的に使い回しでオフィシャルの続編としてはやや物足りないものの、SoCで不足し、未完成だった要素をさらに昇華させて作られた納得のいく作品に仕上がっている。SoCではZoneというノンリニアな空間で自由に過ごせたが、あくまで行うことは戦闘中心でありその他の要素はオマケに過ぎなかった。CSはそこから何歩か前進し、Zone内部の変化する状況を見極めながらArtifactの探索、アイテムの売り買い、武具の改造を行い、Zoneの中で"生活する"という段階に近づき始めた。どこまで当初の理想に近づけるのか、これからの発展が楽しみなシリーズである。
最後になるが、CSで拡張された部分を楽しむためには前作以上にじっくりプレイすることを勧める。メインのクエストを追いかけるだけでは前作との変化が感じ取り難くなってしまうので。
S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky 日本語マニュアル付き英語版