“人の動き”にこだわり続ける開発者
Bennett Foddy氏の開発したインディーズゲームたち

Last Updated: 2011.07.18 / First Edition: 2011.07.18


目次

  1. QWOPの中に隠されているコンセプト
  2. ゲームキャラクターをプレイヤー自身とするために
  3. リアルなモーションとゲーム性
  4. 関連記事

QWOPの中に隠されているコンセプト

2008年、日本を含め世界中のインディーズゲームファンの間で『QWOP』というゲームが話題になった。

このゲームは一見、男が1人走るだけの、ただのアスレチックゲームに見える。しかし実際にプレイしてみると、ゲームクリアが恐ろしく困難であることに気付かされるだろう。何故ならこのゲームに登場する男を走らせて進むには、タイトル通り"QWOP"で彼の足の4つのパーツをそれぞれ別々に動かし、連動させなければならないのだ。

動かそうとしても大抵の場合は左右の足の動きが上手く噛み合わず、何故か後ろに向けて進んでしまったり、重心がズレて頭部を強打し、1メートルも進まずにゲームオーバーになる。このズッコケぷりと妙にリアルな動きへの拘りがウケた作品と言えるだろう。




このブラウザゲームを作ったのが、博士号を持ちアカデミックな分野で活躍する傍ら、1人のインディーズデベロッパとしても知名度の高いBennett Foddy氏である(Webサイト)。彼はQWOPという「奇ゲー」を作っただけの一発屋ではない。彼のコンセプトは一貫しており、それはゲームキャラクターをプレイヤーの分身として具体化(Embodiment)することである。
「様々なトリックや錯覚により、優れたアクションゲームでは、あなたは自分自身がスクリーン上に具体化されていると感じるでしょう。あなたがマリオを操作しているんじゃなく、あなた自身がマリオであると感じ始めるはずです」
「QWOPが本当に上手いプレイヤーに尋ねれば、やがて複雑なインターフェースは消えて、脳が順応すると答えます。彼らは"Q-W-O-P"を押すことを考えてません。彼らは『前に進むこと』を考えており、その指はただ必要なように動くのです」
―Bennett Foddy
EDGE #229 P133より
一体どれだけのプレイヤーがこのゲームでまともに“歩行”できるのかは置いといて、古くから開発者たちは、いかにプレイヤーとキャラクターをダイレクトに繋ぐかに腐心してきた。しかし彼のように、キャラクターの「動き」そのものをプレイヤーと直結させようという試みは、既存の操作デバイスを使ったゲームでは絶滅に近くなっている。例えば現在のゲームで人気の高い一人称視点のゲームは、キャラクターの「視点・経験」をプレイヤーとリンクさせるものであり、身体の動きを繋げるものではないのだ。

ゲームキャラクターをプレイヤー自身とするために

Foddy氏の作品は、ほとんどが“人の動き”にこだわって作られている。




このコンセプトは、処女作品『Too Many Ninjas』の中にも見ることができる。このゲームは左右から襲いかかってくる多数の忍者を撃退する比較的純粋な2Dアクションゲームで、主人公は動くことができないが、アロキーを押すことで刀を構えて、敵の攻撃を跳ね返すことができる。

この刀を振り回す動作に適度なディレイが含まれているのが面白いポイントで、ランダムに左右から襲いかかってくる忍者たちの攻撃に対応するには若干速く対応しなければならない(左右から同時に攻撃されると詰みっぽいときもあるが)。本作は彼自身のサイトで公開後、すぐに話題となりDiggのフロントページに載ったという。




『Little Master Cricket』はクリケットの打者にフォーカスしたゲームで、プレイヤーはマウスジェスチャーによって直接バットをコントロールする。

バットの振り方、ボールに当たる角度によってリアルに軌道が変化するのが面白く、セーフゾーンにボールを運ぶと得点に、アウトゾーンに運ぶとゲームオーバーになってしまう。背後のウィケットに当たっても駄目なので、プレイヤーは全てのボールを次々に打ち返さなければならない。ブラウザゲームなので、注意しないとマウスカーソルがゲーム外に飛んでしまい、バットを動かせなくなるのが残念だった。




そして2011年に公開された『GIRP』は、QWOP以来のヒット作だ。QWOPは両足を4つのパーツに分断して操作することにより、リアルな動きが可能となるアスレチックゲームを目指したが、現実的にはまともに走ることすら困難で、大抵のプレイヤーにとって直感的な操作はとてもじゃないが不可能だった。

一方、GIRPは全く別のアプローチでプレイヤーとキャラクターをリンクさせている。このゲームはロッククライミングを再現しており、主人公は岩にかけられたリングを両手で掴みながら岩壁をよじ登ってゴールを目指す内容になっている。

そしてリングから次のリングへと腕を伸ばすとき、プレイヤーは主人公と同じように、それまで押していたキーボードのキーをタイミング良く、素早く離して次のキーを押さなければならないのだ。例えば画像の"L"のリングから"R"のリングに移動したい場合、Lキーを離した瞬間にRキーを押す必要がある。力を入れて自分を持ち上げるにはShiftキーかマウスクリックをする。

つまりこのゲームでは、キーボードと岩壁をリンクすることにより、プレイヤーにまるで「キーボードをよじ登っていく」かのような操作を行わせるのだ。
「画面上のマリオを自分だと感じさせるような心理的効果を最大限にするやり方は沢山あります。そのうちの1つが、プレイヤーが動こうと思ってからキャラクターが動くまでのディレイを最小化する方法です。でも僕がGIRPで試みた別のメソッドは、コントロールと画面上のアクションに一種の類似点を作ることでした」
―Bennett Foddy
EDGE #229 P133より
筋肉が悲鳴を上げる代わりに、GIRPではプレイヤーの指がツリそうになる。そして落ちないためにキーをホールドし続けなければならないストレスが、画面の中で踏ん張っているキャラクターとプレイヤーの一体感を高めているのである。

なお今回紹介したQWOPとLittle Master Cricketに関しては、iPhone用にバージョンアップされたものも販売されているので、興味がある人はそちらも試してみて欲しい。

リアルなモーションとゲーム性

こういったキャラクターの動きや重心などに強い拘りを持ったゲームは今後、Kinectを始めとするモーションコントローラーに頼って開発されていくだろう。これまでの操作デバイスでプレイすることにも、それならではの面白さやメリット(例えば疲れないし手軽)が沢山あるが、やはり体感ゲームの未来はモーションコントローラーという気がする。

逆に既存の操作デバイスで作られるゲームは、貧弱なQTEを多用した鑑賞ゲーになりがちで、最近は特に良い作品が少ない。クラシックゲーム『Die by the Sword』は、マウスとキーボードを利用した数少ない傑出した体感アクションゲームである。また比較的最近の作品では『Trials 2』が重心移動を軸にした骨太なバイクゲームとして良く出来ていた。

このゲームは死ぬときに転倒して頭部を強打するのがQWOPによく似ていて、やはり重心移動を中心に考えたゲームでは、どうしても前のめり後ろのめりになってしまうんだなと痛感。我々が普段何気なく行っている二足歩行の凄さを改めて感じてしまうわけである。

話が逸れた。こういったプレイヤーの操作とゲームキャラクターをダイレクトに繋ぐゲームの素晴らしい点は、単に「キャラクターとの一体感を得られる」という感覚的な部分に留まらない。ゲーム的に見てもアナログに操作することで、より多様なゲーム展開、無限の選択肢を生み出すという利点がある。というよりむしろ、こちらの方が重要ではないかと感じる。

例えば一般的な処理のゲームでは、マウスクリックは単に「敵を上段から斬りつける」という単純なアクションしか生み出さない。しかし剣の動きを自在に操作可能な場合「斜め37度から振り下ろす」「横からの斬り付けを片腕で受け止める」といった無限のアクションが可能になる。

ここ数年で目覚しい進化を遂げた物理エンジンと組み合わせれば、それだけでかなり面白いアクションゲームが作れそうだが、有効活用しているタイトルがあまりないのが現状だ。やはりこの手の関節単位での動きを再現したゲームの欠点は、これまでのデバイスでは操作が難しい点に尽きるだろう。

そんなわけで、既存の操作デバイス、それもブラウザゲームという領域でこういったユニークなゲームを作っている氏には今後も期待したいのである。ちなみにFoddy氏は、現在の異常に大掛かりになったメインストリームの世界に疑問を抱いており、ゲーム開発者は大作を作るための退屈な作業に何年も費やすより、よりクリエイティブで金を作ることもできるインディーズゲームに挑戦した方が良いと説いている。



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